Sanzyusseiki-no-mori

作成/ 2005-02-25 | 更新(1)/ 2005-03-01

日本式(訓令式)ローマ字の拡張表

日本式(訓令式)の表に対しては不満の声を聞く。外来語の表記(平成3年6月28日内閣告示第二号)に用いる仮名の公的なローマ字が示されていないからである。しかしローマ字表は五十音に従って一律に定義される類いのものだから、既存のローマ字表に明記されていなくても理論的に包括することは可能である。

音韻体系と表記法

まず、ローマ字の方式について整理したい。一般の方がローマ字のつづり方で混乱するのは、音韻体系と表記法の区別ができていないからである。日本式ローマ字と訓令式ローマ字(およびヘボン式)は、理論と応用の関係にある。訓令式は「現代語の音韻」(昭和61年7月1日内閣告示第一号 現代仮名遣いの付表)を採用した表音式仮名遣いの表記法として確立した。歴史的仮名遣いと現代仮名遣いが異なる表記法であるように、表音式仮名遣いもまた異なる表記法なのである。従って、それぞれ別の表記法である歴史的仮名遣い、現代仮名遣い、表音式仮名遣いの三者を同一にすることは原始的に不可能である。歴史的仮名遣いの「かな」は、現代仮名遣いでは「かな」になる。表音式仮名遣いでは「かな」になる。これらは表記法の違いから生じるのであって、五十音、あるいはローマ字の表が導いたのではない。

表記法を実際の音に対応させようという考え方を表音主義という。現代仮名遣いは歴史的仮名遣いよりも実際の音に近く、表音式仮名遣いは現代仮名遣いよりもさらに実際の音に近い。他方、表記法ではなく、音韻体系(五十音)をローマ字に写したのが日本式ローマ字である。日本式はさまざまなローマ字表記法に適用する前段階にある。上の例をふたたび取り上げれば、歴史的仮名遣いに従う場合は「kanadukahi」、現代仮名遣いに従う場合は「kanadukai」とつづる。前者を歴史的仮名遣いによる厳密翻字、後者を現代仮名遣いによる厳密翻字という。表音式仮名遣いに従う場合は「kanazukai」になる。これが訓令式である。現代語の音韻によらないつづり方は、すべて日本式に立ち返る必要がある。

ローマ字の表

下に示した表は、日本式(ISO3602)に基づいて日本語が扱えるすべての音を理詰めに導き出した完全な表である。これ以外の音を取り上げても、日本語は別の音と見做すか、既存の音と競合を起こすのだから意味がない。ローマ字表記だけで仮名表記がない枠は、そういう音が日本語の枠組みの中で成立する余地があることを示す。表の見方に関しては、下の覚書を参照されたい。

直音

清音と濁音からなる日本語の音韻の基本表である。この表で示した音に y を挟むと開拗音の表、w を挟むと合拗音の表、wy を挟むと複合拗音の表が派生する。

行列 a i u e o
母音
a

i

u

e

o
k
ka

ki

ku

ke

ko
s
sa

si

su

se

so
t
ta

ti

tu

te

to
n
na

ni

nu

ne

no
h
ha

hi

hu

he

ho
m
ma

mi

mu

me

mo
y
ya
-
(yi)

yu
イェ
ye

yo
r
ra

ri

ru

re

ro
w
wa
 
〔ゐ〕
wi
-
-
(wu)
-
〔ゑ〕
we
-
〔を〕
wo
-
g
ga

gi

gu

ge

go
z
za

zi

zu

ze

zo
d
da
 

di
zi

du
zu

de
 

do
 
b
ba

bi

bu

be

bo
p
pa

pi

pu

pe

po
v ヴァ
va
ヴィ
vi

vu
ヴェ
ve
ヴォ
vo
撥音
n

開拗音

直音に y の半母音を挟んだ音である。表は一律であり、例外はない。現代日本語では、エ列の音は外来音のみで用いる。イ列の音は半母音の加法により直音化するため、実際では成立しない。

行列 a i u e o
ky きゃ
kya
-
(kyi)
きゅ
kyu
-
kye
きょ
kyo
sy しゃ
sya
-
(syi)
しゅ
syu
シェ
sye
しょ
syo
ty ちゃ
tya
-
(tyi)
ちゅ
tyu
チェ
tye
ちょ
tyo
ny にゃ
nya
-
(nyi)
にゅ
nyu
-
nye
にょ
nyo
hy ひゃ
hya
-
(hyi)
ひゅ
hyu
-
hye
ひょ
hyo
my みゃ
mya
-
(myi)
みゅ
myu
-
mye
みょ
myo
ry りゃ
rya
-
(ryi)
りゅ
ryu
-
rye
りょ
ryo
gy ぎゃ
gya
-
(gyi)
ぎゅ
gyu
-
gye
ぎょ
gyo
zy じゃ
zya
-
(zyi)
じゅ
zyu
ジェ
zye
じょ
zyo
dy ぢゃ
dya
zya
-
(dyi)
(zyi)
ぢゅ
dyu
zyu
-
dye
zye
ぢょ
dyo
zyo
by びゃ
bya
-
(byi)
びゅ
byu
-
bye
びょ
byo
py ぴゃ
pya
-
(pyi)
ぴゅ
pyu
-
pye
ぴょ
pyo
vy ヴャ
vya
-
(vyi)
ヴュ
vyu
-
vye
ヴョ
vyo

合拗音

直音に w の半母音を挟んだ音である。表は一律であり、例外はない。現代日本語では外来音以外では用いない。ウ列の音は半母音の加法により直音化するため、実際では成立しない。

行列 a i u e o
kw クァ*
kwa
クィ
kwi
-
(kwu)
クェ
kwe
クォ
kwo
sw -
swa
-
swi
-
(swu)
-
swe
-
swo
tw ツァ
twa
ツィ
twi
-
(twu)
ツェ
twe
ツォ
two
nw -
nwa
-
nwi
-
(nwu)
-
nwe
-
nwo
hw ファ
hwa
フィ
hwi
-
(hwu)
フェ
hwe
フォ
hwo
mw -
mwa
-
mwi
-
(mwu)
-
mwe
-
mwo
rw -
rwa
-
rwi
-
(rwu)
-
rwe
-
rwo
gw グァ*
gwa
グィ
gwi
-
(gwu)
グェ
gwe
グォ
gwo
zw -
zwa
-
zwi
-
(zwu)
-
zwe
-
zwo
dw -
dwa
-
dwi
-
(dwu)
-
dwe
-
dwo
bw -
bwa
-
bwi
-
(bwu)
-
bwe
-
bwo
pw -
pwa
-
pwi
-
(pwu)
-
pwe
-
pwo
vw -
vwa
-
vwi
-
(vwu)
-
vwe
-
vwo

複合拗音

直音に wy の半母音を挟んだ音である。表は一律であり、例外はない。wy を挟む表記は見苦しいという意見があるが、慣用表記として別の文字を割り当てても構うまい。その場合においても、原理原則は示す必要がある。ただ、複合拗音はまず使用しないのだから、慣用表記の必要性もあるまい。

イ列の音は半母音の加法により合拗音化する。ウ列の音は合拗音のウ列が加法により直音化するため、間接的に開拗音化する。このため、複合拗音のウ列は開拗音のウ列と混同を起こす。例:テューバ (twyûba) → twu = tu → チューバ (tyûba)

行列 a i u e o
kwy -
kwya
-
(kwyi)
-
kwyu
-
kwye
-
kwyo
swy -
swya
-
(swyi)
-
swyu
-
swye
-
swyo
twy -
twya
-
(twyi)
テュ
twyu
-
twye
-
twyo
nwy -
nwya
-
(nwyi)
-
nwyu
-
nwye
-
nwyo
hwy -
hwya
-
(hwyi)
フュ
hwyu
-
hwye
-
hwyo
mwy -
nwya
-
(nwyi)
-
nwyu
-
nwye
-
nwyo
rwy -
rwya
-
(rwyi)
-
rwyu
-
rwye
-
rwyo
gwy -
gwya
-
(gwyi)
-
gwyu
-
gwye
-
gwyo
zwy -
zwya
-
(zwyi)
-
zwyu
-
zwye
-
zwyo
dwy -
dwya
-
(dwyi)
デュ
dwyu
-
dwye
-
dwyo
bwy -
bwya
-
(bwyi)
-
bwyu
-
bwye
-
bwyo
pwy -
pwya
-
(pwyi)
-
pwyu
-
pwye
-
pwyo
vwy -
vwya
-
(vwyi)
-
vwyu
-
vwye
-
vwyo

覚書

揺らいだ競合音、発音と音韻の違い

日本語は外来語の影響を受けて発音に揺らぎが生じた。揺らいだ音には、「ブ(b-)」と「ヴ(v-)」のように別の音韻にある場合と、「チ」と「ティ」のように、同じ音韻にある場合の二つがある。ローマ字の表を拡張するという目的に限っていえば、前者は問題にならない。後者は既存の音と競合を起こすため、その扱いに関しては別に定める必要がある。

現在の日本人は「チ」と「ティ」を明確に聞き分けられるが、だからといって区別するわけではない。こちらで「チーム」、あちらで「ティーム」と発音されても、異なることばと捉える者はいない。明らかに異なる響きを持っていても、「ティ」はタ行イ列の音として成立し、「チ」に置き換えてなんら差し障りがない。このような音を「揺らいだ競合音」という。なお、競合音で実際に揺らいだのは既存の音のほうで、平安時代には「チ」は「ティ」と発音した。現在は振り子が元の位置へ戻る過程にあると考えられる。

ローマ字では原則として揺らいだ競合音は表記に反映しない。 「ティ」は実際のところ「ティ」とも「チ」とも発音される。どう表記するかに関しても定則はない。言葉によって「ティ」が優勢であったり、「チ」が優勢であったりするが、競合する音と混同が起こる以上、両者は同じ音韻にある。これを別の音韻と見做すと、なぜ混同が起こるかを説明できない。しかし厳密翻字などで揺らいだ競合音をあえて書き分ける場合は、子音と母音のあいだに区切り点を挟む。

注) 平成3年6月28日内閣告示第二号の留意事項その1(原則的な事項)の5項は、「原音や原つづりになるべく近く書き表そうとする場合の仮名(第2表)を用いる必要がないときは、一般的な仮名(第1表)の範囲で書き表す」とし、「トゥ→ツ」などを例示した。4項も参照のこと。

競合の表

行列 a i u e o
t ティ
t'i
トゥ
t'u
d ディ
d'i
ドゥ
d'u

同一音

仮名表記ではかつての文字が廃れ、新たな文字に置き換わったものがある。これは仮名文字の相続問題であり、ローマ字の関与することではない。よって、ローマ字ではたとえ厳密翻字であっても区別しない。「ゑ」と「ウェ」を書き分けなくとも、表記法の新旧の違いで区別がつくからである。特別な事情があって区別の必要がある場合や、日本語入力装置などで振り仮名式を用いる場合では、新たな文字を競合する文字と見做し、競合音の処理を類推適用するのがよかろう。

同一音の表

行列 a i u e o
w ウィ
wi
ウェ
we
ウォ
wo

つづり方の一般原則

ローマ字をつづる場合は、以下の一般原則を適用する。

単語の分かち書き

大文字の使用

音節の終わりに来る「n」の文字

二重子音

長母音

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